韓国、チェジュ島訪問記(01)

11月18-19日の2日間、韓国のオルタナティヴ・アートスペースのネットワーク会議「2016 AR TOWN」のシンポジウムに招待され、チェジュ島に滞在しました。駆け足の滞在でしたが、島内のアートスペースを巡りました(1日目の内容については後日掲載します)。

 シンポジウムの会場となったチェジュ美術館

シンポジウムの会場となったチェジュ美術館

18日 AR TOWN 初日。

チェジュ美術館(Jeju Museum of Art)を会場に、韓国オルタナティブスペースのラウンドテーブルと午後のシンポジウム。シンポジウムは、海外からはTaipei Artist Villageのディレクター、Wu Dar Kuen(台湾)、重慶のアートスペースOrgan Hauseのディレクター、Ni Kun (中国)、横浜のBankART1929のディレクター、細淵 太麻紀さん、と僕の計4人(僕だけ個人)。夕方には「2016 AR TOWN 」展覧会のオープニングが行われた。

19日 AR TOWN 2日目。

あいにくの雨だが、チェジュ島アートスペース・ツアーに参加。ここ数年増えている島内のアートスペースを一気に駆け抜けるツアーで、韓国の各都市からの参加者と一緒にバスに乗って、霧雨の空の下、島の南西部へ。島の様子はどことなく阿蘇に似ており、海に囲まれた高原のようだ。チェジュの伝統的な石積み工法で作られた石塀で区切られたみかん畑や白菜畑が延々と続く。この石塀、チェジュの溶岩石を積み上げて作られていて、お互いに隙間が空いているが、この地で年中強く吹く風によって倒されないため。風土とデザインの調和。

最初に訪問したスペースは、西の集落の中にある元倉庫を改装したギャラリー兼工房スペース「JAEJU DO JOA」 。元倉庫の中には、ジュエリー制作のための工房とカフェが併設されていた。

 スペース外観

スペース外観

3年前から始まった島の空家問題に取り組むプロジェクトの一つとしてスタートした場所。他の場所は長く続かなかったが、ここはソウルから移住したデザイナーと地元の作家が共同して、海辺に流れ着いてゴミやガラクタを集め、リデザインすることで、アクセサリーやオブジェへと作り変えるプロジェクト「beachcombing」を行っている。これらのアクセサリーを販売することで、比較的安定してスペースの運営が行なわれているという。流れ着いたプラスチックやガラスを巧みにネックレスやイヤリングへと作り変えていて、思わず欲しくなる。特に、打ち上げられたプラスチックを使って作られた手提げランタンが素敵。

 展示スペース兼カフェ

展示スペース兼カフェ

 島に流れ着いたゴミで作られたアクセサリー

島に流れ着いたゴミで作られたアクセサリー

 手作りランタン

手作りランタン

「Jaeju Do Joa」(韓国語) http://www.jaejudojoa.com/

街の方へと戻りつつ、昼ごはんタイム(トンカツ定食、何故…)。途中で通り沿いにある小さなウインドウ・ギャラリーをバスの中からさらっと眺める。

次にバスは島の中心地である「旧済州(クチェジュ)」に到着。今も、東門市場や海岸に向かって続くショッピングストリートなど、観光の中心地。東門市場近くのビルの2階にある現代アート専門のギャラリースペース「ART SPACE C」を訪問。ディレクターのAn HeyKyoungさんは、10年間ものあいだ一人でこのギャラリーを運営して、韓国の現代アートをチェジュ島の人々に紹介し続けている。過去の展覧会フライヤーの中には、韓国民衆美術のホン・ソンダム氏の「靖国の迷妄」展もあった。

 「ART SPACE C」入り口

「ART SPACE C」入り口

 ディレクターのAn HeyKyoungさん

ディレクターのAn HeyKyoungさん

「art space c」http://artspacec.com/

次に訪問した場所は、東門市場から歩いて5分ほどのところにある元病院。現在チェジュ文化財団と市が共同でこの建物を改装して、来年春をめどに新しい複合文化施設をオープンさせる予定。韓国のここ数年の大規模なハコモノ文化政策の潮流がチェジュ島にも、、と思ってしまう。元病院の正面に続く通りの両脇には、すでに多くのアートスペースやギャラリー、スタジオが入っている。これも市の文化政策/空屋対策の一環で、各スペースは3年間は家賃が無料でスペースを借りれるとのこと。

 チェジュ文化財団の人に案内してもらう。後ろの建物が元病院。

チェジュ文化財団の人に案内してもらう。後ろの建物が元病院。

 中国、重慶のアートセンター「Organ Hause」のディレクターNi Kun(左)と、台湾、Taipei Artist VillageのディレクターWu Dar Kuen(右)

中国、重慶のアートセンター「Organ Hause」のディレクターNi Kun(左)と、台湾、Taipei Artist VillageのディレクターWu Dar Kuen(右)

 内部はまだほとんど手付かずのまま

内部はまだほとんど手付かずのまま

この通り沿いのビルの地下にあるスペース「ART’ SCENIC」は、ストリート・アートやサブカルチャー(ダンス、音楽も含み、韓国ではよりストリート・カルチャーという意味合いが強い)を中心に、ストリートを舞台にしたコミュニティ・アートプロジェクトを展開しているスペース。室内は黒く、壁にアナキストマークが描かれていたり、DIY的スタイルが全面に出ている。ギリシアのアナキスト・グラフィティアーテイストを呼んで壁画を描くプロジェクトについて説明してもらったりと、いろいろと面白そう。ただ、スペースはやはり市からの無償補助を受けていて、そのかわりに、月に一度ストリートでのコミュニティ・パーティを企画しているという話。個人的にもっと話を聞きたかったが、団体行動至上主義の韓国の土地柄、またの機会ということに。

 「ART SCENIC」の内部。地下1階の「黒い」アートスペース。

「ART SCENIC」の内部。地下1階の「黒い」アートスペース。

 コミュニティーに根付いたストリートアート的活動について説明中。

コミュニティーに根付いたストリートアート的活動について説明中。

 通りに描かれたグラフィティ

通りに描かれたグラフィティ

別の建物には、先ほどの黒い雰囲気とは真逆の、子供や市民のためのアート教室が入っている。自主製作の絵本本棚に並んでいる絵本が意外とパンクな感じで良い。ここはさっと見学。

アーティストたちの陶芸作品などを販売するアート・ショップ「GAMA&JOY」や、古い伝統的な建物を使った展覧会場も。港の方へ歩いていくと古い元食堂の空屋が見えてくる。ここも「AR TOWN」の展覧会場の一つ。韓国の若手作家の展示を行っていた。急すぎる階段がパンク。

次は、またバスに乗って島の東側へ。チェジュ島の伝統家屋を利用したギャラリースペース「Yang!」へ。レジデンス、ギャラリー、コミュニティ図書館が一緒になったようなスペース。ちょうどレジデンスで滞在していたというベトナム人アーティストの展覧会をしていた。それにしても、伝統家屋を改装したというギャラリーの天井が超低い。。

 チェジュの伝統家屋を改装した「Yang!」のギャラリー。

チェジュの伝統家屋を改装した「Yang!」のギャラリー。

最後に訪問したのは、海岸近くの集落の中にある、若いアーティストKang Jun Sukさんらが運営するカフェ兼スタジオ「J-VISITOR」。小さな可愛らしい庭園と、こじんまりしたカフェ兼スタジオ。描いている絵も童話の世界のようにかわいい。

 可愛らしい一軒家と小さな庭園

可愛らしい一軒家と小さな庭園

 若い移住者たちの新しいライフスタイルを体現しているかのよう。

若い移住者たちの新しいライフスタイルを体現しているかのよう。

 カフェの中に併設されているスタジオ。お客さんが少ない日はここで黙々と作業しているという。

カフェの中に併設されているスタジオ。お客さんが少ない日はここで黙々と作業しているという。

「J-Visitor」http://blog.naver.com/jvisitor

今、韓国で最も移住したい場所として注目を集めるチェジュ島。ソウルの都市生活、競争社会に嫌気がさして、新しい、別のライフスタイルを求めて本土からやってくる人たちが年々増えている。そして、もう一つは中国からの観光客や移住者たち。中国からビザなしで渡航できることもあって、観光や投資目的で訪れる中国人の数は多く、また街の店のあちこちで中国語を見かけた。今、多くの中国マネーが島に流れ込み、土地バブル、建設ラッシュを引き起こしているという。しかし、このような急激な観光地化、投資開発ブーム、外部からの人口の流入は、島の活性化とともに地元の人たちとの新たな軋轢や格差、対立を生み出しているという話も耳にした。

今回のツアーで、確かにチェジュ島のアートスペースの活況を肌で感じることができた。ただ、この活況は韓国特有の文化政策の一過的な現象ではなかろうか、という思いも同時にあった。3年間プログラムのように、市の援助の期限が過ぎた後にどのように自立していくのかは、どのスペースも模索していた。それでも、おそらく今後数年は続々とアートスペースや、アートに関する新しいプログラムが生まれてくるだろう。個人的には、単にアートという枠だけでなく、新しい「暮らし/生活」を試みる人たち(農業、食、伝統工芸からエネルギーの分野まで)の実験の場としてのチェジュ島という方向性の方に、何かしらの可能性を感じた。「レジデンスプログラムの交流のアイデアはりますか」と文化財団の人に訊かれたので、むしろそのような「暮らし方の実験」をしている人同士が出会うレジデンスが面白いのではと答えた。今回、駆け足の滞在だったのでチェジュ美術館とツアー以外は行けなかったが、次回は、済州島4・3事件平和公園や画家、イ・ジュンソプの美術館にもぜひ訪問してみたい。